水中写真の「青かぶり」「青飛び」に関するたぶん正しい説明

Wikipediaは誰でも編集できるので、書かれていることを何でも信じるわけにいかない」というのはよく言われることでありますが、先日たまたまWikipediaの「防水ケース」という項目を見ていたら、関連製品の説明の最初にこんなことが書かれているのを見つけましたよ。

防水ケースとカメラを用い、水の中で映像を撮影する場合、多くは紫外線の影響で青みがかった写像となる。

下線部はほぼ100%マチガイ*1です。だったらさらに紫外線の強い地上写真はみんな真っ青ではないか。仮に紫外線がゼロでも水中では青かぶりは起きるでしょう。
同様の理由で「デジタルカメラだから青かぶりが起きる」も間違いです。青かぶりはカメラの問題ではありません。

青かぶり

水中写真で全体に青みがかって写ることを青かぶりと呼びます。フラッシュを使っても、フラッシュ光が届かないような部分は青かぶりします。
ダイバーなら誰でも知っているように、海の中深くなるにつれて環境光から最初に赤い光が吸収され、次に緑、最後に青が残って最後は真っ暗です。赤い光はちょっと潜っただけでも吸収されるので、フラッシュやライトを使わない限り多くの水中写真は青みがかります。
これは可視光の範囲の問題であって紫外線の有無は関係ありません*2
ちなみに水中マクロ写真の場合はフラッシュを使うことが多く、カメラやフラッシュが被写体に十分近いことが多いので、青かぶりはあまり問題になりません。

青飛び

水中写真、特にワイド系撮影で青い部分の階調が表現しきれずに締まらない印象で写ることを青飛びと呼びます。青飛びに関する正しい説明はwebをちょっと探しても見あたりませんでしたので、ついでに紹介します。
青飛びは白飛びと似た現象ですが、水中写真特有の課題といっても良いでしょう。
水中、特にワイド写真で青かぶりが起きることは珍しくもありませんが、この時カメラはほとんど青だけの色で写真を撮っています。青、赤、緑の3原色の一つだけ、ベイヤ配列で言えば全画素の「4分の1」*3しか使えていないことになります。カメラにとっては厳しい環境です。
そんなとき露出を自動にして撮ると、カメラはその青だけを使って適正露出にしようとしますから、画面の大部分を占める青を精一杯明るくしなくてはいけなくなります。つまり、青の写りだけを考えると完全に露出オーバー、これが青飛びです。
全体が青い中で、わずかな面積を占める魚が泳いでいれば、これも青飛びに釣られて白く飛んでしまうでしょう。こういった問題を避けるためにも、水中ワイド写真では露出を意図的に(場合によって)2段も暗く(アンダーに設定)するわけです。この最大「2段」の理由は、恐らくベイヤー配列の「4分の1」が理由でしょう。実際には、青い部分が画面のどの程度を占めるかで調整することになります。

後から補足:青かぶりの補正をカメラにやらせるべきか?

デジタルカメラならば、多くの機種でホワイトバランスを自動的に調整してくれる機能(AWB)があります。また、水中撮影を前提とした調整機能として、普通のAWBではカバーしきれないような水中のための極端な調整をしてくれるカメラもあります。
できることならばこういった機能は使わず、また、JPEGよりはRAWで撮ることをオススメします。理由としては、やはりデジタル的な色合いの補正は結果として不自然な絵になってしまうことが多いからです。
地上で使うAWBとは違い、水中では極端に減った青以外の要素を復元させようとすることで、その原理上、本来なかった色まで足してしまうことになります。
フラッシュを使う撮影も青かぶりの補正という面では近い意味がありますが、本来ない色を足さないという意味ではフラッシュを使う方が「ましな方法」と言えるでしょう。

*1:特殊な写真撮影では紫外線が青かぶりの原因になることが知られていますが、水中写真で一般的にいう青かぶりとは異なります。

*2:もっと簡単に言えば「水自体の色がわずかに青いから」の方が正解に近い。

*3:ベイヤ配列では青1に対して赤1、緑2の比率。