時勢とは恐ろしいものだ

毎日新聞のサイトに、驚くべき記事*1が掲載されました。何と「女性専用車両」を増設してほしいと、警察が鉄道各社に要請しているというのです。
この件についてはもう少し後に詳しく書こうと思っていましたが、このような記事が出るとはかなり危機的状況であり、とりあえず今日書いておきます。
女性専用車両とは列車の中の一部に男性が乗れないよう制限するもので、目的は痴漢の排除となっています。以前にもふれているように、これは男性の権利をまったく無視した悪行であり、またこのようなことを平然と許してしまう時勢にも問題があるといえます。当然ですが、「女性専用車両は許されるか」と「では痴漢被害をなくすにはどうすればよいか」はまったく別の問題です。
実は女性専用車両に反対する会*2というのも存在するのですが、表紙を見る限りではどうも議論が眠いというか、本当は何が問題なのかはっきりしません。鉄道会社の利益追求や混雑率の均一化*3などどうでもよいことです。一義的な問題は

(1)すべての男性を痴漢扱いをし、基本的人権を尊重していない

ことにあります。これはオーバーでも言い過ぎでも何でもありません。事実そのものです。
他の問題点もあげてみましょう。

(2)痴漢は男性が加害者、女性が被害者だと断定している。またそれを理由にしている。

当たり前ですがそうとは限りません。「男性が加害者であることが圧倒的に多い」からといって、すべての男性への差別を正当化することはまったくできません。

(3)女性専用車両があることによって「痴漢被害がなくなる」はずがない。

(2)を正当化したとしても、(この理屈は中学生くらいの知恵があれば理解できると思いますが)男性を隔離しても、女性が他の車両に乗ることができる限りは痴漢被害はなくなりません。本当に男女間の問題をなくしたいなら、トイレや風呂のように列車でも完全に男女を分けるべきです*4

(4)女性専用車両があることによって「痴漢と間違えられる問題がなくなる」はずがない。

問題は各種調査*5によれば男性でも「痴漢と間違えられるおそれが減るから」という理由をもって、女性専用車両に消極的賛成をする人が多いことです。(3)と同様ですが、この理由にはまったく根拠がありません。
また「痴漢と間違えられる」のはその人の責任ではなく「痴漢と間違えた」人の責任なのに、すべての男性がその代償を払う必要などまったくありません。

(5)何より考え方自体が男女不平等である。

「男性は痴漢であるから女性専用車両には乗れません」という理屈を正当化することは、「黒人は不潔であるから白人専用車両には乗れません」を認めるのと似てはいませんか。そもそも前提が間違っているし、こういう理屈を認めて良いのかどうかは歴史が示しています。しかし人種差別が許された時代には、このような理屈も当たり前のように正当化されたのでしょう。今の雰囲気はそれに似ていると言えます。

(6)こういう不適当な主張を警察がしているということ。

本来は市民の安全と権利を守るのが警察の役目であるはずなのに、このような誤った根拠で元に鉄道会社に働きかけを行うのは甚だ不適当です。万一、女性専用車両に乗ったことを理由に男性を痴漢容疑で検挙するようなことになれば本末転倒です。

(7)これらの問題がマスコミ等でほとんど議論されない。

いかに世の中で男性差別*6が進んでいるかということが分かります*7女性差別については頻繁に取り上げるマスコミは、男性差別についてはほとんど取り上げません。もっと各方面で議論されるべきではないでしょうか?
これらの問題にいずれもクリアに反論でき、なおかつ女性専用車両の必要性が語れるというのならば認めざるを得ませんが、そういう納得のいく話は聞いたことも見たこともありません。

*1:MSN-Mainichi INTERACTIVEより

*2:女性専用車両に反対する会

*3:ごくわずかな例ではありますが、例えば神戸電鉄では混雑を理由に女性専用車両の時間帯を短縮した例があります。

*4:これはばかげていると思われるかも知れませんが、この手の方法での完全な解決にはこれしか方法がありません。

*5:利用者の意識を含む女性専用車両の導入に関する調査については、例えば国土交通省によるものなどがあります。

*6:男性差別については別サイトでも議論されています。例えばここ

*7:2004年12月20日の日記